2020/10/28 20:43

師匠の家での住み込み生活を始めてからは、初めて経験することばかりだった。

専門学校を卒業したての、世間知らずの私は、そこで社会人としての礼儀や師匠の仕事に対する考え方など、沢山のことを学んだ。

朝から夜までずーーーーーーっと一緒に過ごすため、

師匠の言葉、交友関係、毎日どんな音楽を聞いて、どういう生活リズムで動いているのか。

このような経験はとても貴重なことで、今となっては二度とできないことだろうと思う。

(住み込みをすることもそうであるが、一緒に過ごすことも恐れ多くて出来ない)

仕事以外にも、植栽をしたり、家具を見に行ったり、ホームパーティーを開いたり、

常に色々なことに興味を持ち、何事も全力でやる人だったので一緒にいてとても刺激になったし、

何よりも楽しかった。(怒られて殴られることもしばしばあったが・・・)

住み込み生活をしてしばらく経った頃、師匠が衣装の案件を持ってきた。

当時、洋服を作れる人は私しかいかなかったため、私が携わることになった。

某有名男性アイドルの衣装だった。

今でもあの人の衣装を担当したと自慢している、とても思い出深い案件だ。

パターン打ち合わせから生地の手配まで全て任せてもらった。

アシスタントの先輩も手伝ってくれた。

撮影の現場でヘアメイクの人、ご本人にも、とてもよく出来ていると褒めてもらった。

納期がタイトなこと、ご本人のこだわりの強い衣装だったこともあり、徹夜に次ぐ徹夜をし、

とにかく形にするのが大変だったけど、とてもやりがいのある仕事だった。

そして師匠からは異例のボーナスまでもらった。

私は学生時代、服作りでの表現で成功することはできず、半ば挫折気味に、違う形での表現を目指してスタイリストのアシスタントになった。

しかし、思わぬ形で、また服作りと向き合うことになったのだ。

この出来事があって、また服作りを始めていきたいという思いが再燃したのだった。

そして撮影が終わり、帰りの車の中で元旦を迎えた。

その年はいい年になるなと確信をし、良いスタートを切ることができた。